2014. 06. 07  


残念なことに、昨年10月1日、トム・クランシーはボルティモアのジョンズ・ホプキンス大学病院で亡くなりました。享年66。

「レッド・オクトーバーを追え」以来、トム・クランシーの作品を愛読してきましたが、何がスゴイって、彼の小説はまるで将来を予見しているかのごとく、正確かつ巧妙に作品のプロットが練られているところです。作品内に書かれ、現実に起きた出来事といえば、「9.11」があげられます。

マンハッタンの世界貿易センタービルに旅客機が激突する映像を観たとき、「あれ、トム・クランシーの小説みたい」、とっさにそう思いました。

彼の著書の一つに「日米開戦」があります。アメリカと日本の間で生じる経済摩擦が軍事衝突にまで発展する、という物語。主人公であるジャック・ライアンは、日本側の陰謀を解き明かし、戦争状態を終結させます。しかし、この戦争中に息子と兄弟を亡くし、悲しみに暮れていた日本人パイロットが、ボーイング747をハイジャック。アメリカの国会議事堂にアタックするのです。

これはアメリカ人にとって、カミカゼ(特別攻撃隊)の再来なわけです。日本人にとっては不本意なことですが、英語で「kamikaze」といえば、それは「自爆攻撃」に対する形容の言葉として定着しています。

さて、本日ご紹介したいのは、トム・クランシーの遺作となった、「米中開戦」。これがおもしろい。新潮文庫から全4巻で出ています。私は方違えの最中、内房のホテルで修行僧のごとく禁酒。鑑定を終えた深夜の時間帯に、むさぼるように読みふけりました。

アメリカにおける中国観がこの小説のベースになっており、これが実に興味深い。彼らが中国をどう見ているか、よく判ります。

アジアに緊張を創り出す国家主席のモデルは習近平、幼なじみの共産党中央軍事委員会主席は、対日米強硬派の劉源上将(劉少奇の長男)。南シナ海で暴れ、やがて台湾にまで手を伸ばすのです。

現実問題、いつの日か起こり得ることの一つとされる中国と台湾の衝突。

ネタバレになりますから、これ以上は書きませんが、小説なのに非常にリアルなのです。現実の南シナ海において、中国の暴挙が同時並行で進んでいるわけですから。

たぶん、彼ほどの巨匠になると、軍や政府機関内にも協力者がいて、「秘密情報」も入って来るのだと思います。つまり、優れた情報分析を小説の手法としているのでしょう。

昨年11月23日、中国中央テレビは「中国国防省は今日、東シナ海防空識別圏を設定した」と報じました。ご存知のように、この一方的な設定には日本の領土である尖閣諸島も含まれています。

これを、トム・クランシーの「米中開戦」は、見事に予言していました。


米中開戦1 (新潮文庫)米中開戦1 (新潮文庫)
(2013/12/24)
トム クランシー、マーク グリーニー 他

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2014. 05. 02  

Agatha Christie

アガサ・クリスティの異色作、「春にして君を離れ」は、現代文学における最高傑作の一つです。

彼女のミステリーに慣れ親しんだ身には、誰も死ななければ、トリックもない、名探偵も登場しないという、ちょっと肩透かしを喰らう作品であることは事実なのですが、それゆえに彼女自身もまた、「アガサ・クリスティの名ではこの本をミステリーと勘違いしてしまう読者もいるだろうから」と、あえてメアリ・ウェストマコットという別名で発表しています。

しかしアガサ・クリスティのどの作品よりも、実は怖い。

<あらすじ>

収入にも地位にも恵まれた弁護士の夫、優秀な三人の子供たちを持つ人生に成功したイギリス人女性が、海外旅行中にバグダッドで足止めを喰らう。天候悪化で無期運休となった鉄道を待ち続ける間に、彼女は自分の人生を振り返っていく。

同年代の女性は老けて醜くなっていくのに、私は若々しく美しい容貌を保っている。夫が社会的に成功しているのは、賢く夫をサポートする私がいるからだ。いつも家族のことを思い、家族を愛し、家族を一番に考えてきた私のおかげで、子供たちはそれぞれ幸福な生活を得ている。

……ほんとに?

それが、家族のことを考え、家族のために生きて来たと言えるの?
夫や子供たちから、愛されていた?

深く掘り下げてゆくと…小さな疑問が、やがて底なしの恐怖へと広がってゆく。


自身を完璧な妻にして母であると信じ、疑うことのなかった日々。

しかしそれは、家族に対し自己の価値観を押しつけていただけではなかったのか。ゆえに、家族から嫌がられているのかもしれない。いまや、すっかり機能不全に陥っている家庭。

一点非の打ちどころのない私の人生は、ただ単に自己満足にひたっていたに過ぎず、自己欺瞞でしかなかった。そう気づく主人公、ジョーン・スカダモア。

「自分の良心や本心に反しているのを知りながら、それを自分に対して無理に正当化すること=自己欺瞞」と向き合うには、誰しも覚悟が要るものです。それは、己れが傷つくからにほかならない。

得てして人は、見たいものを、見たいようにだけ見て生きているし、なるべくなら自分自身を正当化していたい。そうやって、かろうじてバランスを保っているのでしょう。

ゆえに誰しもジョーン・スカダモアを笑えないわけで、読み進めていくと、自分の中にもある自己欺瞞を鼻先に突きつけられているようで、なんとも居心地のわるい気分になっていきます。

やがて鉄道が再開。家族のもとへ戻るときには、「いや、私は正しかったのよ」と、こころに鎧をまとい直してしまうジョーン・スカダモアにうんざりしていると、最後にまた、クリスティに裏切られるのです。さすが、クリスティ。ぞっとさせられます。

もしお時間がありましたら、ゴールデンウィークにお奨めの一冊。

若い頃と、人生の年輪を重ねてからでは、味わいがまた違ってくる作品です。家族をコントロールし、それを正当化するジョーンを自分の周囲にいる人物に当てはめ、やだやだ、こんな女にだけは絶対になるまいと思ったら、それは若い証拠。

時を経て読み返すと、哀しくも愚かなジョーンは私であり、あなたでもある……。そして、かつては憐れみを感じた夫も、この妻にしてこの夫ありなのだと気づかされます。



春にして君を離れ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)春にして君を離れ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)
(2004/04/16)
アガサ・クリスティー

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2013. 04. 12  


昨夜、電話鑑定で真珠を専門に扱う宝石商の女性の方とお話していました。
その生き方も、仕事ぶりも素敵な方です。

と書けば簡単なことですが、女性がビジネスで成功することが如何に苦難であるかは言わずもがなで、
同じように生きてきた私には、暗黙のうちに共感できるものがたくさんあります。

女性に限らず、ビジネスを起こして成功するにはクリエーティブな才能が必要だと言われます。
確かに、創造性は経営者にとって大切なことですが、
ベンチャーで会社を回す人は恐ろしく細かい人が多く、実務に強いのです。

経営者が経理ができず他人任せにすると、ほとんど例外なくお金を誤魔化されて倒産します。
ですから、実務に弱い経営者で成功している人には、たいがい実務に強い配偶者がいます。

そんな話をしましたら、その方が昔、ご覧になった笹川良一のドキュメンタリーの話をされました。
あるシーンだけが、今日に至っても脳裏に残っていらっしゃるそうです。

競艇の親玉であり、政界のフィクサーでもあった笹川さんが、
日本財団の決済で、50万円以上の「銀行の普通預金払い戻し請求書」には自らが判子を押していた、と。

競艇という、ザックザックとお金の入る、お上(かみ)に認められたバクチの胴元で、
50万円なんて経費は、はした金でしょう?

家計費の千円、いや百円程度じゃないかしらと、二人で話が盛り上がったのですが、
笹川良一は50万円以上の支払いにはすべて目を通していた、というところで、

高見山や山本直純とともに一世を風靡した「戸締り用心、火の用心」、さらには右翼の親玉の枠を超えて、
笹川さんは戦中戦後のどさくさ時代のベンチャーの雄であったのかもしれません。
銭は他人任せにはしなかった、という一点に於いて。

さて、宝石と言いますと、モーパッサンの短編に「首飾り」という名作があります。

これは、若い方々には読んでいただきたい珠玉の小品なのですが、
ネタバレになりますけれど、あらすじを掲載いたします。

小説で読みたい方は、以下は読まないでくださいね。


モーパッサンの「首飾り」という短編、「庶民の家に生まれた美女は不運で、美女は金持ちの家に生まれなければならない」と世間では受け止められていると、自然主義のモーパッサンは冒頭から皮肉をはじめます。

マルチドは安月給とりの家に生まれた美女でしたが、低い身分であったために、下級役人ロワゼルと結婚することになります。気位の高い美貌を鼻にかけた性格のマルチドにはそれが不満でなりません。自ら着飾りたくてもそれを満たす収入がなく、マルチドの生活は質素そのものでした。それでも内心は欲望でめらめらし、毎日大富豪になったらと空想ばかりしているのです。

夫のロワゼルは、そんなマルチドとの生活をとても満足して気に入っており、惜しみなく愛情を注いでいます。華やかな場に出て注目を浴びたい妻のために、苦労して舞踏会の招待状を手に入れますが、舞踏会にきて行くドレスがありません。シンデレラなら魔法使いのおばあさんがドレスとかぼちゃの馬車とガラスの靴をレンタル期間限定で出してくれるのですが、ロワベルは安月給の役人です。

猟銃を買うためにためておいた400フランのお金をはたいて、マルチドのためにドレスを買います。それとて決して舞踏会でひけらかせるほど上等なものではありませんが、彼の親族の中でもっとも高級なドレスでした。

マルチドには舞踏会につけていくアクセサリーもありませんでした。しかし、幸運なことに、彼女にはフォレスチエ夫人という富豪の友人がいました。マルチドは彼女からダイヤをちりばめた首飾りを借りることに成功すのです。

着飾ったマルチドは舞踏会に行き、その美貌とエレガントさで舞踏会の男性諸子はもちろんのこと、大臣の注目までも浴びました。マルチドにとって夢の中の出来事で、彼女はこのひとときに酔いしれました。夫のロワゼルもそんな可憐な妻を持ったことに満足していました。

ところが、家に帰りドレスを脱いで、マルチドはとんでもないことに気がつきます。胸元にあったはずの、ダイヤの首飾りがなくなっているのです。嗚呼!

マルチドとロワゼルは弁償のために、同じ首飾りを探し回りますが、なかなか見つかりません。ようやく同じ首飾りを見つけたのですが、その値段たるや3万6千フラン。

夫のロワゼルは、親から譲り受けた遺産のすべて、そしてあちこちからお金を借りまくり、なんとか、なくした首飾りと同じ物を買い、フォレスチエ夫人には無事返すことができました。

この日からマルチドとロワゼルの赤貧洗う借金返済の日々がはじまるのです。

夫婦は屋根裏部屋に住み、爪に火を灯すつましい暮らしをし、身を粉にして働き続けること10年。美女マルチドは自分の容姿のことや身なりのことなどまったく気にしない、たくましい女性になっていました。10年がかりで借金を返し終わった頃、街の中で偶然にフォレスチエ夫人に会います。

マルチドは、実は借りた首飾りをなくしてしまい、よく似たものを買って返したこと、そのために多額の借金を背負い、ようやく返し終えたことを誇らしく告げます。

言われたフォレスチエ夫人にも、隠していた秘密がありました。マルチドに貸した首飾りは、実はイミテーションで500フラン程度のものだったのです。




写真は、往年のマリア・カラス。
さりげないスナップでも、その圧倒的な存在感は、ただただスゴイのひとことに尽きます。


 イヤリング外せばほてる春の宵

 



2012. 10. 28  
診断名サイコパス―身近にひそむ異常人格者たち (ハヤカワ文庫NF)診断名サイコパス―身近にひそむ異常人格者たち (ハヤカワ文庫NF)
(2000/08)
ロバート・D. ヘア

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関連記事:「角田美代子の自殺」


尼崎の「女モンスター」といえば、角田美代子容疑者のことですが、
あの相関図がややこしくて、誰が殺されたんだか、それがどういう関係だったのか、
何人殺されて、何人行方不明なのか、もう何回見たって全体像が把握できないのですが、

角田美代子は、いわゆる「サイコパス」ではないか、、、そんな感じを受けます。
専門家ではないので、安易に断定を下せるものではありませんが、

些細なきっかけから他人の家庭に入り込み、狙った家族はとことんしゃぶり尽くし、
用済みとなれば、非情にも生命を絶つ。

事件の報道に接する度に、
10年ほど前に読んだ、ロバート・D・ヘア博士の、
「診断名サイコパス 身近にひそむ異常人格者たち」が脳裏をよぎります。

原題の「Without Conscience/良心の呵責を覚えず」が、まさしくサイコパスの的を射ているのですが、

サイコパスは社会の捕食者であり、生涯を通じて他人を魅了し、操り、情け容赦なく我が道だけを行き、
心を引き裂かれた人や期待を打ち砕かれた人、財産を奪われ尽くした人を後に残していく。

良心や他人に対する思いやりに全く欠けており、罪悪感も後悔の念もなく、社会の規範を犯し、
人の期待を裏切り、自分勝手に欲しいものを取り、好きなように振る舞う。

その多くは刑務所内にいるが、社会に出ている者もまた多い。
その大部分は殺人を犯す凶悪犯ではなく、身近にひそむ異常人格者である。

北米には少なくとも200万人、ニューヨークだけでも10万人のサイコパスがいると、
犯罪心理学者ロバート・D・ヘアは統計的に見積っている。 ーWikipediaー


確かにこの本を読むと、シリアルキラーといった極端な発露ばかりではなく、
卑近な例も多く引用されており、それゆえにその怖さが伝わってくるのです。

ヘア博士は、サイコパスを以下のように定義しています。


「感情/対人関係」

  1、口達者で皮相的
  2、自己中心的で傲慢
  3、良心の呵責や罪悪感の欠如
  4、共感能力の欠如
  5、ずるく、ごまかしがうまい
  6、浅い感情


 「社会的異常性」

  1、衝動的
  2、行動をコントロールすることが苦手
  3、興奮がないとやっていけない
  4、責任感の欠如
  5、幼いころの問題行動
  6、成人してからの反社会的行動


精神病質者であるサイコパスは、
精神病者のように精神障害があるわけではなく、現実を把握できないというわけではありません。
多くの精神障害を特徴づけている妄想や、幻想や、強烈な主観的悩みを経験しているわけでもないのです。
精神病者と違い、サイコパスは理性的で、自分がなにを、なぜしているのかをちゃんと把握しています。

そして、何かの要因ー重度の麻薬やアルコール依存症、異常な性欲、劣悪な家庭環境、幼児虐待、
犯罪多発地帯での成長、家庭や仕事における極端なストレスから反社会的な行動をとるに至った人間を、
「反社会病質者・ソシオパス」と呼び、それらは異質のものだと区別しています。

つまり、精神病質(サイコパス)と反社会病質(ソシオパス)は、似て非なるものであるとし、
サイコパスは先天疾患であるというのが、この本の前提です。

どうしてこんな欠落がおこるのかなんとかして説明しようとすると、
まず家族環境に目を向けることになるのだが、そこに答えはほとんどない。
あたたかく慈しみにあふれた家庭に育ち、
兄弟は他人を深く思いやる心をもったノーマルで誠実な人間なのに、
本人がサイコパスである場合もある。


そして、サイコパスはなにも刑務所のなかにだけいるわけではなく、
親、子供、配偶者、恋人、一緒に働いている人など、身近に存在する人間であることを強調します。

確かに、人を殺さないまでも、金品を上手に巻き上げ、周囲の人間関係をズタズタにしていき、
関わった人々を見事なまでに不幸にしていく、、、そういう人々は社会の中にいます。

また、私の元には、そうした人に関わって、苦しんでいる方々からの相談も案外と多く、
暗剣殺や歳破の方位を侵しますと、こうした人々に出会う確率が非常に高くなるのです。

分析していきますと、一白の歳破方位を侵すと、一白水星のサイコパスに出会いますし、
七赤の暗剣殺方位を侵すと、決まって七赤金星のサイコパスに出会うのです。

私も、サイコパスと思えるような人物に出会ったことが何度かあります。
その経験を踏まえて、知人のアメリカ人の精神科医にその人物たちの話をしたところ、

「サイコパスに出会ったら、とにかく逃げることが肝心。
彼らを矯正するプログラムはないのだから、関わらないためには逃げるしかない」

とアドバイスしてくれましたが、

やっかいなのは、サイコパスが必ずしもモンスターのごとき外形の持ち主というわけではなく、
むしろ弁舌さわやかで、社会的なエリート層の中にも実はまぎれ込んでいるこということなのです。

ですから、多くの場合は知らずに接していて、苦しめられてから、その異質さに気づき、
善良な人々ほど、逃げるに逃げられないところまで追いつめられてゆくという事実です。

そうなる前に、彼らの行動パターンがある程度みな一緒であることを知るためにも、
この本は、我々にとって必読の書ではないかと思うのです。




2012. 09. 15  
中国危うい超大国中国危うい超大国
(2008/03/30)
スーザン L.シャーク

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尖閣諸島の国有化への対抗措置とみられる中国側の動きが拡大しています。

14日は尖閣沖の日本領海に過去最多の6隻の海洋監視船が侵入しました。
一方、中国国内では反日デモが過熱し、日本人が襲撃されるという事件も起こっています。
懸念されるのは、中国の日本企業と駐在員、そのご家族、留学生等にこれ以上被害が及ばないことです。

いったい、中国首脳部はこの状況に何を考え、いかに対応しようとしているのか?

スーザン・シャークの名著、「危うい超大国 中国」を読みますと、
中国首脳部の意外な素顔が浮かび上がって来ます。

1971年、ニクソン訪中に先だって、中国は15人のアメリカの大学院生を招くのですが、
スーザン・シャークはその一人に選ばれ、周恩来と親しく言葉をかわしたという女性です。

彼女はアメリカ国務省で長らく中国を担当し、
クリントン政権時代には国務次官補として東アジア政策を統括する立場にありました。

本書は、中国の表と裏に通じた著者が、外部からは伺い知れない中国における権力構造の内情を描いており、日中問題に関心のある人ならば、ご一読をお奨めします。

孫子はその兵法の中で、「敵を知らずんば百戦危うからず」と唱えましたが、
尖閣問題を上手に乗り切るためには、先ず、敵(中国首脳部)をよく知るべきでしょう。

私たちが中国政府から受ける印象といえば、その強気な対外姿勢がまず上げられるわけですが、
実は、国内の反発に対しては常に戦々恐々としておびえている、弱々しい政権であるということに驚きます。
これには私も目からウロコでしたが、なるほど、そういうわけだったかと膝を叩きたくなるのです。

中国の首脳部は、外交において少しでも弱気の姿勢を見せれば、
国内の不満が一気に政権に向かうのではないかという、恐怖心に取り憑かれてしまっているのです。

国内の反発におびえているからこそ、対外的には必要以上に強気な姿勢を示さなければならないわけで、
この点をよく理解しないと、中国の対外姿勢を正確に読み解くことは絶対にできないでしょう。

かつての毛沢東や周恩来、鄧小平といった巨人たちに比べ、江沢民も胡錦濤も自分にはカリスマがなく、
マルクス主義も権威を失った今、その支配力が極めて脆弱だということを自覚していると著者は言います。

彼らは、失業した労働者、搾取された農民、学生といった不満分子が、
ナショナリズムの力で一つの反体制勢力にまとまり、
全国的な抗議運動を展開するというシナリオをもっとも恐れているわけで、
現に1989年の天安門事件では共産党政権が壊滅寸前まで脅かされるわけです。

そして、この事件の悪夢に、現在の共産党政権指導部はうなされ続けているのだと著者は指摘します。

指導者としての己れの器に自信のない江沢民は、後ろ盾であった鄧小平の健康悪化後、
権威を高めようとしてナショナリズムと反日をあおり、一応の成功をおさめますが、
実はこうしたナショナリズムの利用は、自らを追いつめるものでもあったわけです。

反日デモは、いともたやすく、反政府デモに転化する可能性があります。
抗議行動に自由に参加することの味を覚えてしまった人々は、
遅かれ早かれ政治参加を求めてくるわけです。
江沢民のあおった反日ナショナリズムは、実は、中国共産党政権にとって両刃の剣でもありました。

江沢民時代の1995年から96年にかけて、日中関係は国交正常化以来最悪の状態に陥りました。
この時期、中国は核実験を行い、日本は中国への援助を打ち切って遺憾の意を表明します。
尖閣諸島の領有をめぐり日中関係は緊張し、橋本首相は靖国神社を参拝します。

江沢民と橋本龍太郎、大人げない二人の国家首脳によって繰り広げられた日中最悪の時代でした。

胡錦涛政権になると、江沢民時代にナショナリズムに目覚めた世論の機嫌をとりつつ、
そのナショナリズムが中国の国内動乱や、対外紛争につながることを防ぐという、
微妙な綱渡りが演じられるようになります。

胡錦涛は、複雑怪奇な日中関係を江沢民より上手に処理できることを、
国内にアピールしたいと考えているのだと、著者は指摘します。

しかし、対日関係を改善しようという趣旨の論文が、インターネット上で激しく批判されるのを見て、
胡錦涛と温家宝はためらってしまったのです。

それが如実に現われたのが、2005年4月の上海における反日デモです。
あのとき、党や政府の高官は誰一人としてデモを批判しようとはしませんでした。

中国の外相は日本の外務大臣に対して、「謝罪すべきは中国ではなく日本だ」とやり返したり、
その数日後、小泉・胡錦涛会談の後、記者会見で、「日本は真剣に反省するべき」と述べます。
さらに、呉副首相は訪日の際の小泉首相との会談をキャンセルして帰国し、中国国民から喝采されます。

江沢民によってあおらた反日世論は、もはや中国指導部にとっては、
どうしようもない程に熱を帯びてしまっていたのでした。

ある人民解放軍大佐は次のように述べているとのことです。

「外交部も党指導層も、日本に関する世論を変えて、歴史問題については忘れてしまいたいというのが本音だ。だが、それにはもう、遅すぎるのだ。まだ党が国内の情報の流れを完全に掌握していた十年前(注:1995年)なら、できたかもしれないが、今ではもう無理だ」

中国政府が日本から見ると極めて理不尽な対日姿勢を採り続ける理由は、
この大佐の言葉に凝縮されています。

振り返れば、毛沢東時代の共産党は、国民の反日感情を動員する必要などなく、
毛沢東主席と周恩来首相とのコンビは、日本と平和的で友好的な関係を結ぼうとしていました。

1972年の日中国交正常化の際にも、毛沢東と周恩来は、
日本に対して戦時賠償を求めないことを決めています。
1970年代から80年代を通じて、中国人は日本に対して良好なイメージを抱いていたようです。

そして、1982年には歴史教科書問題がありましたが、
鄧小平は中国世論の怒りに上手に蓋をすることができたのです。

1985年、中曽根首相の靖国参拝の際も、当時の中国首脳部は日中関係の大切さを自国民に訴え、
デモを沈静化させるだけの力を持っていました。

しかし、残念ながら江沢民にも胡錦涛にも、そうした力はありません。

そして、私たちは、中国が非常に脆弱で危険な国家であるということを認識すべきでしょう。

なぜなら、この国には選挙制度がないのです。
選挙があれば、政権に対する不満は、選挙の投票行動で吸収されるわけですが、
現在の中国において、政権に対する不満は大規模なデモという危険な形でしか表現することが出来ません。

中国の膨大な人口を考えれば、デモが全土に広がることに対する中国政府の恐怖が、
いかに大きなものであるかは容易に想像がつきます。

そうなったときに、人民解放軍が政権の味方につく保証はどこにもありません。
逆に、人民解放軍が共産党首脳部に対して銃口を向ける可能性だってあるわけです。

このように考えれば、尖閣問題における中国政府の強硬的な姿勢を理解することができます。
日本に対して、必要以上に強気な対外姿勢を示さなければ、
中国政権は国民の批判にさらされてしまうことになり、ひいては政権崩壊にさえつながってしまうわけです。

中国の外交当局も必要以上に日中関係をこじれさせたいと思っているわけではなく、
やむにやまれぬ国内事情があってのことなのです。

そうした中国の国内事情を本書から学びますと、
尖閣問題によって、現在の中国で繰り広げられていることが、また一つ、よく見えてくるのです。

 



プロフィール

れいらん

Author:れいらん
ご訪問ありがとうございます。

東洋占術歴40年になります。占い師とは「人を幸せに導く職業」だと思ってきました。同時に、多くの方のさまざまな悩み苦しみに接し、人ひとりが人生を生きく抜くことの困難さに思いを馳せずにはいられません。思えば私たちの人生はこころの旅であり、こころには喜びが必要です。こころがつらいとき、どんなに強い人でも自分を支えていくのは難しいことです。その苦しみからどうやって抜け出すか、私の占いが少しでもお役に立てれば幸いです。占いを通じて多くの方々の人生に接してきました。その喜びや哀しみに共感し、一喜一憂する日々はまた、私自身のこころの旅でもありました。

長きにわたり、ご紹介のお客さま限定の対面鑑定をしてまいりましたが、少しでも多くの方のお力になりたいと思い、このブログからの電話鑑定も受け付けることにいたしました。電話が苦手という方にはメール鑑定もご用意しておりますが、電話の方がよりニュアンスが伝わりやすいと存じます。

東洋占術にはそれぞれ得意とする分野があり、ご相談の内容によりもっとも適切な占術をこちらで判断の上、鑑定いたします。

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